若い世代が「自分の体を大切に考え、興味を持つようになる」アイデアとは?
日本では、不妊に悩んだことがあるカップルは3組に1組と言われているそうです。でも、女性も男性も自分の体のことや妊娠や不妊について、そのときがくるまで基礎的な知識がほとんどない場合がほとんどです。そんな日本で、不妊をもっと「ふつうに話せる」社会を目指して、当事者支援を続けているのがFineです。

"当事者たちが毎年同じ悩みを繰り返しつぶやいている現状に、「閉じた会話では社会に届かないんだ」と気付きました"
−まずは、「不妊」をテーマに活動を始めたきっかけを教えてください。
野曽原:Fineを立ち上げたのが、2004年だったんですね。その当時ってまだインターネットは発達しきってなかったんですけど、ネットの掲示板っていうのはあったんですよ。そこで不妊に悩む当事者たちが色々と意見交換をしていたんです。
−まだ「不妊」という言葉さえあまり聞かなかった時代ですよね。
野曽原:はい。例えば、お正月に親戚が集まると「子どもはまだなの?」とか傷つく言葉を言われたり。夏の帰省もそうですし、親戚に会わなきゃいけない季節行事ごとに悩みや、辛い気持ちが掲示板で吐露されていたんです。あるとき、なんだか毎年同じ季節に同じ悩みが話題になることに気づいて掲示板の閉ざされた環境の中で話すだけでは発展性がないなって。
−なるほど。
野曽原:不妊当事者の悩みがずっと変わらないということは、社会に届いていないということじゃないですか。そこで当事者だった主婦4人が集まって、「ここで話されていることをもう少し社会に発信したいよね」となって、最初は任意団体として創設メンバーが立ち上げたんです。
"社会のパラダイムシフトが進まないから、このテーマはなかなか根深いです"
−ちなみに、「不妊」に対する周囲のバイアスってありますか?
野曽原:そうですね。不妊や結婚へのイメージや反応は、「親族」「地域」「職場」でそれぞれ少しずつ違うように思います。「親族」は、「結婚したら子どもを授かるのは当たり前」というイメージ。「地域」は、バスで偶然に会った高齢の方から「子どもはいるの?」と聞かれて「いないですよ」と伝えると「まぁ、あなたは社会に貢献できていないじゃない!」と言われた経験談なども聞きますね。「職場」は、やはり不妊治療と仕事の両立は難しいというイメージが強くて、治療かキャリアかどちらかを選ばなければいけない雰囲気もいまだに強いですし。
−まだ子ども産まないと社会に貢献できてないとか言われちゃうんですか…。
野曽原:そもそも、不妊治療を経ての子どもは大丈夫なのか?といった偏見も深層心理であるように感じています。あとは、全体的に性の問題であるが故に、他人に言ってはいけないとか、社会のパラダイムシフトが進まないので、本当に根深いなと。
−本当に難しいテーマですね…。
野曽原:例えば、介護と仕事の両立に関しては少しずつ理解が広がっているように思うんです。これは「可視化された命」と向き合っているからで、逆にいうと不妊治療は「まだ可視化されていない命」だから、理解を得るのが難しいところもあるんですよね。
−「可視化されていない命」。なるほど。
"Fineは当事者を「現在・過去・未来の当事者」と定義をしています"

−Fineさんの主な活動について教えていただけますか?
野曽原:私たちはそもそもスタッフ全員が不妊を経験した当事者団体だったので、不妊当事者の支援が活動のコアです。当事者が孤立してしまわないように、コミュニケーションの場や、ピアカウンセリングの場を提供しています。また、勉強会や講演会などで、社会や国政への啓発活動も間接支援として行なっています。ちなみに、Fineでは不妊体験者の定義を、「現在・過去・未来の不妊体験者」としているんです。不妊治療って、長くて10年位で、大体平均は3〜4年くらい。なので、当事者は移り行ってしまう。
−「現在・過去・未来の当事者」、ハッとさせられますね。
野曽原:例えば、まだまだ不妊について考えたことのない若者もそうですし、何らかの不安があって将来子どもを持てるかどうか心配な方も、「未来の当事者」になり得ますよね。また、「過去の当事者」は、不妊を経験して子どもを持った人、もしくは子どもを授からず夫婦二人の生活をしている人。あとは、養子とか里子を迎えられる方も数は少なくてもいらっしゃるし、とにかく様々です。
−本当に多様な当事者がいらっしゃるということですよね。
野曽原:でも過去に当事者だった人は、皆さん今も何か心の中にひっかかるものを持っていたりします。男女問わず、現在・過去・未来の当事者はみんな仲間だよと伝えていることが、ここまで活動が長続きするきっかけだったなという風に感じています。
"周りの人にちゃんと知ってもらわないと、変わらないなと思っています"
−今感じている一番の課題感はどんなことですか?
野曽原:当事者支援だけでは、例えば、私たちのカウンセリングを受けて一時的には元気になってくれたりするのですが、また自分の地域や職場で色々とあって、元気を失って戻ってくるんですよね。この繰り返しを見ていて、当事者支援と共に、周りの人にもちゃんと知ってもらわないと、変化しないと感じています。周囲への啓発も強めていこうと決めて、企業や、自治体、学校などで啓発活動もしています。
−ちなみに、啓発に関して難しいと感じることはありますか?
野曽原:実は2022年4月に不妊治療が保険適用になったときに、かなりメディアで取り上げられたので、もっと当事者以外の人への啓発が進むだろうと私自身も期待をしていたんです。でも、結果として不妊治療のことや、当事者がどういう想いでいるかなど、重要な啓発が実は全然進まなかったんですよ。けっこう落ち込みましたね。
−保険適用という事実の認知だけで、当事者理解までは進まなかったと…。
野曽原:はい。なので、「妊活リボン」というものを作って通年での啓発もしていたりします。あとは、「未来の当事者になり得る」若者の意識が、とても大切だと思っています。


"自分が現在の当事者になったときに「知らなかった」になって欲しくない。誤解をしないように、常に自分の体というものに興味を持ってほしいです"
−特に若者の意識が大切ということについて、もう少し教えてください。
野曽原:私もそうでしたが、やっぱり、多くの人が私は大丈夫って思うじゃないですか。そして特に若い方はそう思いがちです。メディアの影響もあると思うけれど、以前は「不妊治療をすれば、必ず授かるだろう」という誤解があったんですが、今はだんだんと、「卵子凍結さえしておけば大丈夫だろう」という新しい誤解に変わっていたりもします。人間が持つ正常性バイアス*みたいなものがすごく働いているように感じます。
*正常性バイアス:自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりするという認知の特性のこと
−正常性バイアスですか。なるほど。
野曽原:若い世代の人が、自分が当事者になったときに「知らなかった」とならないようになって欲しいです。そもそも子どもを欲しいと思うかわからない人もいますし、不妊になるかどうかも全く未知です。ただ、女性も男性もまずは自分の体に興味を持って、自分の体を大切にして欲しいです。
−ちなみに、若い人たちと妊娠や不妊についてお話しするとどんな反応があるのですか?
野曽原:大学生と話した時に「私たちの関心事は就活です。まず就活がうまくいくことが私たちのゴールです」って聞いたことがあります。子どもを持つ持たない、それは各個人の意思だと思っているのでもちろん尊重していますが、キャリアプランのみで、ライフプランの基礎である自分自身の体に興味がないって言い切る大学生がかなり多いのには驚きました。
−そこまではっきり断言する学生もいるのですね。
野曽原:私たちと一緒に取り組んでくれている学生も、少数ですがいらっしゃいます。でも、彼ら彼女らが真剣にライフプランや、妊娠とか出産とかについて考えたり、取り組もうとすると、周囲から「意識高い系」と揶揄されちゃうわけですよね。それってすごく残念で、本人たちも若干萎縮したりもしてしまいますよね。一緒に考えよう、何か行動をしようと頑張ってくれている若いみなさんを、私たちはすごく応援しているんですけどね。
−「意識高い系」って真面目に何かを考えたい人の足を引っ張る残念な比喩ですよね…。最後に、今回出題された「Q」についての想いを聞かせてください。
野曽原:男性、女性だけではなくLGBTQの当事者の方も含めて、これから様々な妊活のかたちも出てくると思います。特に、10代や20代の未来をこれから考えていく多様な若い皆さんが、まずは自分の体のことを大切に考え、興味を持って欲しいと思っています。将来、知らなかったことで自分自身が後悔をしたり、他の人を傷つけないためにも。性別を超えて若者が妊娠や不妊などについて、普通に会話ができる社会に変わっていくと嬉しいですね。
若い世代が自分の体を大切に考え、興味を持つために。この問いに関心のあるみなさま、たくさんのアイデアをお待ちしています。

特定非営利活動法人Fine(ファイン)
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