自殺者が3万3千人を超えていた日本を変えるには?

生きテク
日本の若い世代(15~39歳)の死因第一位をご存じですか?悲しいことに「自殺」が断トツの一位※1。若い世代に限らず、先進国(G7)の中でも日本は最も自殺率が高い国となっています※2。この状況を変えるためにオキタリュウイチさんが立ち上げたのが「生きテク」というウェブサイト。このアイデアが生まれ、広がっていった背景をお聞きしました。
※1 厚生労働省 令和4年版自殺対策白書 https://www.mhlw.go.jp/content/r4h-1-2.pdf ※2 世界保健機関資料(2022年2月)より厚生労働省自殺対策推進室作成 https://www.mhlw.go.jp/content/r4h-1-7.pdf

僕は、もともとお坊さんになりたかったんですよ。
―オキタさんの活動の源泉はどこにあるんですか?
オキタ:10代のころの僕は、世の中が悪いのは大人のせいだと思っていました。変な商品を作っている大人とか、悪い法律を作っている大人が悪いって。でも20歳になったときに、僕は大人になってしまうわけじゃないですか、後ろ指刺される側になってしまう。そこで、世の中を良くしなければ子どもたちに申し訳がつかないと思いまして、23歳ぐらいの時に「ヘブンズパスポート」という商品を考えつきます。
―具体的にどんなものですか?
オキタ:当時「キレる17歳」っていうのが世の中で言われていたんです*。でもキレてる17歳っていうのは、17歳全体の中ではごく一部ですよね。だから、もっと良いことをする17歳が激増すれば問題はなくなるはずだと。
―おもしろい発想ですね!
オキタ:ヘブンズパスポートは "100個良いことをすると願い事が叶うよ"というもので、一部1,000円で15万部売れたんですね。ヘブンズパスポートがブレイクしたことで、それから変なスイッチが入っちゃって「世の中の問題を全て解決してやるぞ」みたいな人になってしまったんです。僕はもともとずっとお坊さんになりたかったんですが、言うなれば「ネオ僧侶」。
*2000年ごろに相次いで発生した世間で注目された凶行の犯人が17歳前後であったことから、同年代の少年たちがキレる17歳と呼ばれた

多くの人が催眠術にかかっていると思う。みんな「私にはできない」と思い込んでいる。
―オキタさんは様々な活動をしているので、救う対象がすごい広いお坊さんですよね。
オキタ:そうかもしれないですね。例えば、障害者がその個性を活かして起業することを目的に「ユニバーサルベンチャー」って言葉を作って、障害者の人が起業するのはどうだろうかと思って、2009年から日本財団と一緒にビジネスプランコンテストというのをやったところ、今でも黒字経営している障害者起業家が現れたりしています。
―まだダイバーシティとか言われるずっと前の話ですね。
オキタ:障害者の人たちに「あなたたちに起業してもらいます」って言ったら、「そんなことしていいんですか」「こんなことしていいと思わなかった」って号泣し始めました。僕は多くの人が「私にはできない」と思い込んでいるという事に気づきました。私はアイデアが出せない、行動してはいけない、という風に催眠術にかかっている。僕は、みんなの「できない催眠術」を一つずつ解いていきたいんです。
自殺しようとした人って実は、責任感が強くて、論理性が高くて、行動力があって、決断力がある、こういう人にこそ生きてほしい。
―「生きテク」はどういうきっかけで生まれたんですか?
オキタ:日本はすごく豊かじゃないですか。財布を落としても拾ってもらえるし、道を歩いていても襲われない。すごく住みやすい国なのに、なぜこのように人が死んでしまうのか。日本は平成16年から自殺者が増えて3万3千人を越えたんです。増えた時に何が起こったのか調べましたら、自殺の方法が見える化したんですね。
―ネットが普及し始めたころですね。
オキタ:そう。この頃から自殺の方法が分かりやすくなったんです。そして、この状況が放置されていると僕は思ったんですよ。自殺対策をする人はいっぱいいますし、相談窓口もありますけど、傾聴はしてくれても解決策は言っていない。例えば、借金抱えている人に対して、借金を抱えてない人が傾聴して終わり。それだと借金は残ったままなんですよね。これはガス抜きにしかならなくて、解決になっていない。解決策が絶対あるはずと思いまして。
―解決策を見つけるために何をしたんですか?
オキタ:まず自殺未遂した人にインタビューをしました。最終的には450人くらいになります。自殺しようとした人って実際は、責任感が強くて、論理性が高くて、行動力があって、決断力があり、人に相談できない、完璧主義、認められない天才とかそういう人が死を選んでいると。これはめちゃめちゃもったいない、こういう人にこそ生きてほしいと。
―法則が見えてきたんですね。
オキタ:どうやって自殺しようとしたのか、裏側を聞いたんですよ。まず、1ヶ月後くらいに「その日」を決めるらしいです。1週間目、何で死ぬかという具体的な方法を決めます。で、2週間目に練習します。その後の2週間では、今までお世話になった人に会うという期間があります。同級生とかいろんな人に会って、最後の日にもう思い残すことはないので死ねたという風に死にます。
―計画的だし、責任感が強いようにも感じますね。
オキタ:そして行動力があるし、決断力がある。そんな人がなぜ死ぬというほうを選んでしまったのか、そこですよね。聞くと、みんな「リセットしたかった」と言うんですよ。ちょっと待ってください。リセット方法は他にもありますよ、と僕は言いたかった。例えば、いじめられている子には、おれも昔いじめられていたけどこうやって解決したよって人を紹介すると、その子は死ななくてすむんですよ。
―なるほど。
オキタ:でも悩んでいる人、一人一人に知り合いを紹介するのは無理じゃないですか。だからそれをインターネット上に集めておいたよというのが、「生きテク」の戦略です。自殺をしようとする人が「自殺 方法」で検索するとこのサイトが出てくる。クリックすると、死ぬためではなく「生きるための技術」が見つかる。
借金から自殺しようと思った経営者も、18歳の特攻隊の遺書を読んだら、自殺を思いとどまった。
―すごいアイデアです。
オキタ:「生きていればいいことあるって、きっと」とか言われても、「そんないい加減なアドバイスしないでくれる?」ってなっているわけですよ。だけどあなたと同じケースの人は3年以内にその苦しみから解放されている、ってことを「生きテク」で具体的に知れば、「え、3年待てばいいの?」ということで未来が変わるわけですね。
―生きテクをやっていて手応えも感じていますか?
オキタ:「生きテク」に、"生きてみるボタン"というのを用意しました。押すと、総数が出るようになっていて、これまで生きテクがきっかけけで死ぬのをやめた人は2万7千人を超えています(2023年8月現在)。

―ちなみに問題解決の方法はどんなものがありますか?
オキタ:まず、人が自殺を考える「悩みカテゴリ」が大きくは7つあります。恋愛、過労、病気、いじめ、死別、暴力、借金。そして、それぞれに対して「生きテク8分類」を称して、8種類の生きるための技術をまとめています。文芸系生きテク、時間系生きテク、コミュニケーション系生きテク、などなどですね。
―技術が体系化されているんですね。
オキタ:そう。例えば1億くらい借金ができて、自分の保険金で払うために自殺しようとしていた人がいて、「生きテク」で18歳の特攻隊の遺書を見たんです。みんな国のために死んでいった18歳とかで、でも俺は自分の借金のために死のうとしている。これめちゃくちゃカッコ悪いなと思って、特攻隊気分で働いていたら借金を全部返せて、今も黒字経営している経営者がいたりします。
―すごい。
オキタ:ほかには身体鍛えて解決したっていうのもあります。いじめられていた人がいるんですけど、その子が女子プロで鍛え始めたら、もういじめられなくなった。身体を鍛えていたら死ぬ気がなくなったとか、これは「身体系」の生きテク。
―なるほど!ちなみにこのアイデアはどう広めていったんですか?
オキタ:これを僕は 「すごい!ノーベル平和賞もんだ!!」と思ったので、報道してくださいといろんなメディアに言いましたら、「画にならないから報道できません」と言われまして。じゃあ、画にすればいいんだと思って、お父さんが自殺しているギャルに「生きテク巨大風船」を持ってもらって、天国のお父さんへという手紙と生きテクを新橋で一日3000通くらい配り、多くのメディアで話題になりました。その後、杉並区長の山田宏氏と連携し、「生きテク杉並区」というのをやったり、青年版国民栄誉賞「人間力大賞」をいただいたり、最終的には本にもなりました。

―生きテクがどんどん拡がっていったんですね。
オキタ:結局、いじめも暴力も鬱も、出口が全部自殺になっていて。それを防ごうと、個人で活動している人もいっぱいいるんです。でも、自殺していく人に対して対応が間に合わない。だから、個人でやっている人もマッピングしていって、ここの地域にこの人いるよとか、そういう事例とかを全部集めて、生きる世界を見える化しようと考えました。新型コロナウィルスによって、10代20代の死因の一位が自殺になって、また生きテクが求められているんじゃないかと思います。
「生きる事にはテクニックがいるんだよ、それを知らなかったでしょ?」というアプローチ
―オキタさんには、「この世って捨てたもんじゃないよね」っていう姿勢が備わっているから、アイデアを生み出せるんだろうなと感じました。
オキタ:僕は、やっぱりそういう事のフェチっていうか、こんな売れるはずないものが売れた話を集めたりするのも好きなんです。例えば、あんこの小倉羊羹が売れてなかったんですけど、あれをスライスして、トーストに乗っけられるようにしたら、50倍売れたとか。世の中ってアイデアに満ちているんですよ。で、世の中は進化したがっているんです。どんどん進化したがっているのに、みんなが止めているんですよね。いろんな思い込みを外してあげるだけで、自由になると思う。僕の仕事ってそういう仕事だと思っています。

