視覚障害者とそうでない人の接点をつくるには?

Braille Neue
世の中になかったものを発明したい思いで、「発明家」を名のっている高橋鴻介さん。世界をあっと驚かせた新点字"Braille Neue"はどうやって生まれたのか。日々、発明家としてどんなことに心がけて生活を送っているのか。そんな、現代を生きる発明家の心の中に迫りました。ぜひアイデアを考えるヒントにしてください!

「接点」の発明で、人と人との新しいコミュニケーションをうみたい
―発明家の仕事とは、具体的になにをしているんですか?
高橋:僕の場合は、「接点の発明」をすることです。僕自身、コミュニケーションに対して苦手意識がずっとありました。初めて会う人や、視覚障害者の人に対して、何が失礼にあたるんだろう、何を話せばいいんだろうと考えすぎてしまい、上手く話せなかった。そう言うハードルを少しでも下げられたらと思い、色々と発明しています。
―何かきっかけがあったんですか?
高橋:田端はやとくんという盲ろう者の友人(見えない、聞こえない特性を持った方)と出会ったとき、文字を書いても、声をかけても無反応で、どうやってコミュニケーションとったらいいか分からなかった。彼は、手話を手で触って読み解く、「触手話」でコミュニケーションしていたんです。この「触覚のコミュニケーション」がとても面白いと思ったので、はやと君と手話通訳士の友人と一緒に「LINKAGE」というゲームをつくりました。

―発明が生まれたんですね!
高橋:はい、すぐ発明を考えちゃうんです(笑)。「LINKAGE」は、自分の指と、相手の指で支えるバランスゲームです。指で遊ぶツイスターみたいなもので、ひとりではなく、みんなで支えるのがポイントです。
―楽しそう!
高橋:めっちゃ嬉しかったのが、はやと君がこの「リンケージ」の売り子をゲームマーケットでやって、手話が出来ない人とも、このゲームを介して一緒に遊んでいたことです。彼はそれを機に「触覚の可能性をひろげていきたい」と言って、「触覚デザイナー」として京都の芸術大学に通っています。「盲ろう者の視点から、みんなが楽しんで、仲良くなれるものを作っていきたい」と言ってくれて、同じ世界を見ている感じがして、すごく嬉しかった。そのとき、「ああ、『接点の発明』って僕にとっても、みんなにとってもいいなあ」と思ったんです。
「接点」の発明で、人と人とのコミュニケーションをつくりたい
―「ブレイルノイエ」も接点の発明としてつくったのでしょうか?
高橋:はい。「Braille Neue(ブレイルノイエ)」は点字と文字を組み合わせた書体なんですが、会社に入って、視覚障害者施設に行ったのが最初のきっかけです。そこで、「目が見える人と見えない人が一緒に体験できるものがあればもっと仲良くなれるのにね」という話があって、すごく共感したというか。そこから、視覚障害者とそうでない人との接点になるもの、どうやって仲良くなれるものってなんだろうと考え始めたんです。
―そこからどうやって点字というモチーフにたどり着いたんですか?
高橋:あるとき、たまたま点字のことを教えてもらったんです。もともとは、ナポレオンがつくった軍事用の暗号という説もあるそうで。視覚障害者のためではなく、目が見える人が暗闇でも書類が読めるように発明された文字だったかもしれないという話を聞いたんです。そしてそのときに聞いた「点字が分かると、暗闇でも本が読めるよ」と視覚に障害がある友人から言われたのが心に響いて。それまで視覚障害者のための文字で自分には関係ないと思っていたのが、急に自分に近づいて、点字って面白い!と思いました。
―グッと点字との距離が縮まったんですね!
高橋:その日は点字との出会いが強烈な体験だったので、僕も点字が読めたらいいなと思って、「点と点の間に線を引いたら文字になるんじゃないか」と手を動かしていきました。最初の1文字か2文字まではデッサンしてみて、意外といけそうだなと感じたので一気にブラッシュアップして、2017年に「ブレイルノイエ」が誕生しました。もともとフォント自体が好きだったので、それが点字への興味とつながり、一つのアイデアになりました。

視覚障害がある人の世界の見方を教えてもらったことで、自分の世界が広がった。
―反応はどうでしたか?
高橋:最初のうちは、あちこちでプレゼンしたけど全然うまくいかなかったんです。でも、渋谷にある「100BANCH」という施設で、渋谷区長に「こんなのつくっているんですけど、よかったら一緒に何かできないですか?」と階段をおりながら、30秒くらいでプレゼンしたのが転機となりました。区長が気に入ってくれて、すぐに福祉課の課長さんを紹介してくれたんです。その後は、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど色々な企業にも採用されていきました。
―世界からも反響が大きかったそうですね。
高橋:Twitterを中心に世界中にアイデアが拡散されました。アイデアって世界にひろがるんだなと感じましたね。ブルガリアのデザイナーさんが、キリル文字のバージョンをつくってくれて「よかったら使ってくれ」と送ってくれたこともありました。

自分の好きなものの解像度をあげると、奇跡や運命を感じる瞬間が増えていく
―高橋さんの経験や好きなことが、全部つながったんですね。
高橋:面白いと感じるものを集めておくと、「自分ってこういうこと好きなんだ!」とあとから気づきます。「なんかいいな」と思うものをストックしはじめてから、点と点が線になって、アイデアを発見しやすくなったんです。自分が好きなものの解像度をちょっとでもあげておくと、アイデアが発火するタイミングが増える気がしますね。
―偶然生まれるのではなく、必然なんですね。
高橋:恋愛において「3つ共通点があると運命を感じる」という説がありますが、アイデアもそれに近いかなと。眼の前にある事象と自分が好きなことが3つ、4つ重なってくると奇跡や運命を感じて、段々とアイデアになっていく。あとは心の動きも大切です。ハッとしたり、じーんとしたり。心の動き方は僕は何でもよくて、キレイだな、かわいいな、楽しいなというような単純な感情が動いたときのほうがアイデアが湧いてきます。アイデアという星座ができるための、最後の星を探していたんだよ!という感じ。
―コップに水を1滴を垂らしたら、もともといっぱい入っていた水がその瞬間溢れて「ひらめいた!」という感じでしょうか。
高橋:そうそうそう。だから、アイデアを出すのに必要なのは、そこに至る準備。ポンと出るものではなくて、「これが面白いな」「これが好きだな」「これはなんなんだろう?」と、少しずつ水をためておく。僕の場合は、足し算でアイデアは出来ていると思う。アイデアは引き算という人もいるけど、足していって臨界点を越えたあとに引いていくことが多い気がします。なので、いろんな面白いものをためておくタンクを自分のなかに持っておくんです。
自分が味わった気持ちいい感情と、目の前の課題を結びつける
―かつて「1日1発明」をやっていたと聞きました。
高橋:はい。自発的というより当時ついていた先輩からの提案だったんですが、実は「ブレイルノイエ」もその中から生まれてきたんです。
―どうやって毎日アイデアを考えてるんですか?
高橋:すごくシンプルで、例えば近くにあるものを起点に考える。電車に乗っているときだと「手すり」で何か考えたり、カフェに行けばカフェのまわりにあるもので考える。もう一つは、こじつけ系。自分の好きなものを、全く別の何かと掛け合わせてみる。それから、「アイデアバディ(仲間)」も大切です。生煮えのアイデアを、否定せずに聞いてくれる人と「壁打ち」をして、自分のなかの解像度をあげていく。
―バディは大事ですよね…。
高橋:アイデアって、主観と客観をいったりきたりする作業。自分は好きだと思っていても、引いてみるとひとりよがりだと気づいたりもする。逆に客観的になりすぎると、自分は面白くない、ということになる。それを誰かと一緒にセッションする感覚でアイデアをつくっていく。心理的な安全性を保ちながらアイデアについて話せる人が一人いると、アイデアがぐっとひろがる。
―アイデアの育ての親は何人いてもいいんですね。
高橋:あとは、自分にとって「気持ちいい時間や感情」と、今ある課題とどう結びつけるか。僕この間、高知県の牧野植物園に行ったんですけど、なんかもう本当に開放感があって「きもちいいーー!」ってなったんですよ。このような嬉しい、楽しい、面白い、美しいといったきもちいい感情を、どうやったら色々な人にシェアできるか。このウェルビーイングな感情と目の前の課題をかけあわせて考えることが多いです。「こうなっていたら気持ちいいよね」と、感情から着地させることもある。
―気持ちいい感情のおすわけ、って面白いですね。
高橋:感情を言葉にするのは難しいけど、その時の感情を、できるだけ再現したい。その時に浮かんだものを実現したいんです。感情の引き出し、感情の共有の仕方、渡し方というのはいつも意識しています。だから、盲ろう者の友人や、視覚に障害がある友人と「心が通えた気がする!」と僕が感じた嬉しい気持ちをシェアするために、「LINKAGE」や「ブレイルノイエ」を発明したのかもしれません。
―「接点の発明」はそもそも、誰かとの出会いという接点によって生まれているんですね。
高橋:ほんとうに! 接点を見つけたとき、すごく興奮して、ワクワクする。みんながあまり見たことがない「接点」「世界の見方」であるほど、発明になるので。この世界の見方は「めっちゃ面白いよ」と知ってほしい。

アイデアは、世界をひろげる「視点」のプレゼント
―高橋さんのアイデアはどれも軽やかですよね。
高橋:社会課題に向き合うときは、その重さを意識しています。重そうな課題ほど、解決法は軽くする。見た目が重そうで、実際に重かったら何の驚きもないけど、触れてみて「思ったより軽い!」となったら驚きがありますよね。心が重たくなる課題こそ、ないがしろにするのではなく、できるだけ軽いものと結びつけることは意識しています。
―だからどのアイデアにも「遊び」があるんですね。
高橋:はい。重たい課題に対して真面目に取り組もうとするだけだと、人は入ってこないので。入口をどれだけライトに設計できるかが大事です。アイデアは、プレゼントのようなもの。だれもが、何かを受けとれるものでありたい。その「何か」とは視点だと思うんですよ。世界をひろげた一人の視点を、他の人にもプレゼントする感覚。そのプレゼントを喜んでくれる人もいるから、また次の「接点の発明」をしたくなります。

