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Q8.

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「10代はもっと社会保障や生活保護に頼っていいよ」そんな空気をつくるムーブメントとは?

出題者:今井紀明さんNPO法人D×P代表理事

2004年、日本人の高校生が武装勢力に拘束された「イラク人質事件」を知っていますか?今井さんはその当事者です。解放されて、帰国した日本で待っていたのは、「自己責任論」にもとづくバッシングでした。その体験から、貧困や不登校などで孤立する10代をサポートする取り組みを行っている今井さんに、今回の「問い」の背景を聞きました。

遠くを眺めて話す今井さん

"ニュースで知った子どもの不条理な状況を変えたい。学校にいるよりも大切だと思ったから、イラクに行きました"

―まずは、「イラク人質事件」について教えてもらえますか?

今井:そもそもの話からすると、高校1年生の時に、9.11があったんですよね。それで、イラクへの空爆で関係のない子どもたちがたくさん亡くなっていることをニュースで聞いていて。そんな不条理な状況を変えたいと思って、イラクに行きました。

―すごい行動力ですね。

今井:だれかが取りくむべき課題だと思ったからで、突き動かされた感じです。自分がやらなければというよりも、学校にいるよりも大切なことだと思ったからですね。

―「学校にいるより大切」ってなんだかすごく響きます。

今井:でも、そのあと現地で武装勢力につかまって、拘束されました。解放されて日本に帰国したら、待っていたのは「自己責任」という言葉をもとにした社会からの壮絶なバッシングでした。その後、対人恐怖症にもなりましたし、引きこもりになって、4〜5年くらいはうつ病にもなりました。

"アフリカのザンビアの支援を経験して日本に帰国したら、日本の方が課題先進国だと気づいたんです"

―その強烈な原体験は、今の活動にどのように繋がっているんですか?

今井:精神的に復活したあと、アフリカのザンビアの子どもたちの支援で現地に3ヶ月間くらい滞在したんですよね。当時のザンビアの平均寿命は40歳代で、経済成長率は10%前後。子どもたちに英語とかを現地で教えていましたが、みんな「こんな国にしていきたい!」とすごく自国の未来について考えていたんですよ。

ザンビアの子ども二人と車に乗る若かりし頃の今井さん

―なるほど。

今井:一方、日本に帰国して小中学校の現場とかを回っていたら、私も経験した「不登校」「引きこもり」「経済困窮」などに、子どもたちが直面していることを知りました。そうすると、国のあり方よりも、そもそも自分の将来すら見つめることを難しいですよね。これは今後もっと深刻になると感じました。日本の方が課題先進国だと気づいて、若者を支援することを目的に2016年にNPO法人D×Pを立ち上げたんです。

"見えてきたのは、日本の支援制度へのアクセスのもろさと、若者の「生活保護を利用しちゃいけない」という拒否感の強さ"

―日本の10代の「リアルな悩み」がどんなものか、イメージがわかない人も多い気もします。

今井:私たちの支援対象者は、13歳〜25歳のいわゆる「ユース世代」です。児童と若者の混ざっている世代ですよね。オンラインや繁華街で支援をしていますが、そこで感じるのは、特に10代後半は制度支援を受けづらいという現実です。

―どうしてでしょうか?

今井:そもそも、中高生は社会保障制度のことを知らない人も多いんです。あと、就職支援も中卒や高卒だと学校以外にはほとんどないですね。行政の相談は窓口に行くか電話。制度を知っていたとしても、デジタルネイティブ世代はそもそもアクセスしにくい。制度自体へのアクセスのもろさ、脆弱性も大きな課題だと思っています。

―確かに10代は情報も入りにくいうえ、どうやって行動するのかも自分では決めにくいですよね。

今井:10代は、「生活保護を利用しちゃいけない」という拒否感もすごく強い。あとは、「友達に知られたくない、周囲に知られたくない」と思っていて、「理解されないだろう」という諦めもあるんですよね。例えば家賃を滞納しているとか、親の介護をしているとか、周りに理解してもらえなえいし、傷つきたくないから、同年代同士ではすごく話しにくいテーマなんだと思います。

―確かに。10代って特に友達から浮きたくないし、色んなことに敏感ですよね。

今井:学校も同質性を重視するじゃないですか。周囲と違うことを話して、ひかれたり浮いたりするのは怖いですよね。この傾向は中高生にはすごく強いなと思います。だから、匿名で相談できる私たちに連絡がきやすいのではないかと感じています。

"支援が必要な若者でも、制度を利用するまでに「頼る」ことへの強い拒否感がネックとなって、半年はかかる"

―やはり、匿名だと相談をしやすいんですね。

今井:食糧支援と現金給付支援の広告を、LINEやインスタで地域限定で出したんですよ。匿名でも大丈夫だとなると、いつも相談が多くなります。服装に気をつかう人も多いので、見た目だと経済的困窮状態にあるかどうかってわかりにくい。だから行政に相談に行っても、見た目を小綺麗にしているので親身になってくれないとかは、よく聞く話ですね。

10代に配られる物資が段ボールに入っている。緑茶や野菜スープ、冷やし中華など

―なるほど…。

今井:友達に話したらハブられたり、行政に行っても追い返されたり。誰かに頼ってもダメなんだっていう失敗経験があると、余計に自己開示するのが難しくなっちゃう。

―勇気を出して頼っても、拒否されると怖くなりますよね。

今井:そうなんです。制度があるのだから、そこに本当に困った10代をつなぎたいのですが、その手前に「自分はそうなりたくない」「税金泥棒と言われるのがいやだ」という、制度を使うことへの拒否感もすごく強いんです。支援が必要な若者でも、制度を利用するまでにその強い拒否感から、半年くらいかかったりします。

"日本は、社会保障制度が必要なのに使っている人は20%しかいない。イギリスやフランスは90%が使っている。社会の空気にも問題があるのでは。"

―そんな社会の空気をつくってしまったのは私たち大人なのではと、申し訳ない気持ちです。

今井:私たちがやっているのは「アウトリーチ」といって、10代のところに出向いて、制度とつなぐことなんです。でも、若者の制度への拒否感が強いのは、社会の空気の問題もありますよね。

―世界の中でも、日本のこの状況は特殊なんですか?

今井:イギリスやフランスなど、人権意識の高い国は「捕捉率*」が90%なんですけど、日本は20%以下なんですよね。社会保障を利用する権利があるのに、実際に利用している人が世界に比べても非常に低いんです。

*捕捉率:生活保護基準以下の世帯で、実際に生活保護を受給している世帯数の割合

―そんなに低いんですね…。

今井:はい。事実、私が大学で講演をしていても、学生に「生活保護を利用しても良いのか?」というテーマで意見交換してもらうと、自分は利用したくないという人がほとんどだったりします。

参照:https://www.ec.kagawa-u.ac.jp/~tetsuta/jeps/no11/sai.pdf

"問題の改善よりも、問題の悪化のスピードの方がはるかに速い。"

―現場で10年以上活動している今井さんからみて、10代を取り巻く環境は改善していると思いますか?

今井:教育の観点などでは、「子どもたちの意見を聞いていく」動きだったり、子育てに関しては、予算をつけようとする動きだったり、改善への取り組みは一定数増えてきているとは思います。

―いい傾向ですね。

今井:ただ、日本の相対的貧困率は2018年に一時的にわずかに改善しましたが、コロナや物価上昇などもあり、現場の肌感としては問題の悪化のスピードの方が、問題の改善よりもはるかに速いように感じています。実際に10代の自殺はこの3年間で急激に悪化しています。特に女子高生の自殺が増えている。あと、不登校の比率も上がっています。

"当事者や関わっている若者達こそが、何よりも力のある存在だと思っています"

―一方、社会を変えようと動く若者も増えている印象があるのですが、実際どうですか?

今井:私たちの展開する「ユキサキチャット(不登校や高校中退、引きこもり状態、困窮などの困難を抱えた10代がLINEで相談することができる窓口)」の登録者は1万人以上なんですが、なんだか社会課題にムーブメントを起こす人って所得レベルで分かれてしまっているように感じています。

ユキサキチャットのスマホ画面。これからのあなたのゆきさきを一緒に考えるための相談

―所得による差がここにも現れるんですね。

今井さん:はい。所得の高い人の方が意見が言いやすいとか、何かを始めやすいということはあります。でも本当は所得とか関係なく、実体験として悩んだ経験があったり、現在進行形で悩んでいる若者たちが、だれよりも、何かを変えていく力のある存在だと思います。子どもや若者たちが主体的になって、今の空気感を変えていく必要があるなと。個人として、今後やっていきたいと思っている大きな一つのテーマです。

―最後に、今回出題された「Q」についての想いを聞かせてください。

今井:今回の問いから、若い当事者やその仲間、そしてこのテーマに関心がある人にどんどんアイディアを出してほしいです。NPOは、政策提言のために動くことはできるのですが、社会の空気を変えることは得意ではない部分もあると思っています。今の「自己責任」の空気から、若者が困ったときに「頼っていいんだ」と素直に思える空気に社会を変えていけたら嬉しいですね。ぜひお力を貸してください。

10代が困った時に「頼って良い」と思える社会にしていくために。この問いに関心のあるみなさま、たくさんのアイデアをお待ちしています。


D×Pについて

https://www.dreampossibility.com/

ユキサキチャット

https://www.dreampossibility.com/yukisakichat/


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