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Q&I
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Q5.

アイデア実装中

日本人の40%以上の人が日常的にスポーツをしていません。どうすればこの状況を改善できますか?

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ゆるスポーツ

考えた人:澤田智洋さんコピーライター

「500歩サッカー」「イモムシラグビー」「トントンボイス相撲」など、「何それ?」と興味をそそるスポーツたち。それが、スポーツが苦手でも、障害があっても、誰もが楽しめる「ゆるスポーツ」です。ゆるスポーツを生み出し、開発し続けている澤田智洋さんにアイデアの源を伺いました。

忍者ロボットニンニンを肩に乗せて笑顔の澤田さん

息子の障害がわかって、一度人生に「句読点」を打った。

―澤田さんは色んなお仕事されてますが、そもそも本業は?

澤田:今もなんですけど、本業はコピーライターで。20代はいわゆる広告関連のクリエイティブ の仕事ずっとしていました。広告の仕事ってめちゃくちゃダイナミックなんですよ。僕が20代のころは、例えばCM一本つくると、その商品の認知度が7割になるとか。ただ、生活者との距離感はずっと感じていて、もう少し手触り感みたいなものが欲しいなと思っていました。

―手触り感ですか?

澤田:そう。日々降ってくる「問い」は基本は企業からのもので、「売上を前年比で110%にするためのクリエイティブは?」といったもの。とても大切な問いなのですが、そういった問いだけに応え続けるのは、目に見えない何かに向かってずっとパンチを繰り広げているようで。悶々としていました。

―その日々から、何か転機はあったんですか?

澤田:32歳のときに息子が生まれたんです。そして、視覚障害と知的障害と自閉症の3つの障害があることもわかりました。僕の仕事は、視覚に訴える仕事が多いんですけど、息子の目が見えないということは、僕がつくった仕事は、見れないよなと気づいて。何のために仕事しているんだっけ?と。

―なるほど。

澤田:それで、一回人生に句読点を打とうかなと。「。」ではなくて「、」ぐらいの。少し立ち止まって、仕事量を減らして家族との時間を増やしたり、自分の歩みを内省したり。結果、クリエイティブの力で息子に何か役立つことをしたいと思って、福祉の世界に飛び込みました。

弱さを見つめて、社会を変えるデザインをするとすごく面白いものができる。

―実際に福祉の世界に飛び込んで感じたことはありますか。

澤田:福祉の世界に飛び込んで、たくさんの当事者に会いにいきました。そこから、義足女性のファッションショーをプロデュースしたり、視覚障害者向けの忍者ロボット「NIN_NIN」とかをつくり始めました。障害とはいわば社会から「弱さ」と捉えらている側面だと思いますが、弱さが持つ力のようなものを少しずつ感じはじめました。そして、僕にももちろん弱さがある。

忍者ロボットニンニンを肩にのせて日本を観光する海外からきた男性

―確かに。誰にでも弱さはありますよね。

澤田:歴史を見ると、タイプライターは目が見えない人をきっかけに生まれたとか、カーディガンは怪我している人をきっかけに生まれたとか。人の弱さみたいなものが起点で生まれた発明が山ほどあるんですよ。自分の弱さに目を向けて、そこから社会を変えるようなデザインをしていくと、面白いし意味のあるものができるなと。弱さはアイデアの源泉なんです。

自分のこの弱さくらいだったら愛せるかな、というレベルから見つめる。

―でも、案外自分の弱さをみるって難しいし、しんどいような…。

澤田:弱さって色んなレベルがありますよね。誰にも開示できない、心に蓋をしておきたいものもある。それを無理に棚卸しする必要はないと思っています。例えば「絵が下手」とか「字が下手」とか、この弱さぐらいだったら愛せるかな、みたいなレベルの弱さから見つめていくので十分だと思います。

―なるほど。でも、どうやってその弱さをアイデアに繋げていくのですか?

澤田:自分の弱さを見つめたり、内省の仕方って色々とあると思うんですけど。僕はまず、自分をクライアントとして捉えてリサーチして、企画書をつくりました。今まではクライアントのためにしていたことを、自分のためにやることにしたんです。

―具体的にどうするんですか?

自分の人生のコンセプトは①感情を知る②役割を知る③得意技を知る④苦手を知る、この4つから導ける。

澤田:最終的に、①感情を知る②役割を知る③得意技を知る④苦手を知る、この4つに行き着きました。この4つの材料をもとに、自分自身の人生をコンセプトや、ディレクションの仕方を考えていく。これって、実は自分がいつも仕事でやっていることなんですよ。

澤田が自分のために書いた資料のグラフなど。詳しくはこの後の文章で

―え〜。面白い。

澤田:「①感情を知る」では、自分の喜怒哀楽を、自分の人生の転機ごとに棚卸しをしました。「②役割を知る」ためには、どの時期に、何に対してどれくらい貢献してきたかを見える化しましたね。「③得意技を知る」は必ず8つ自分の得意を挙げるようにしたんです。3つくらいだとパッと出てくるんですけど、実は絞り出した7つ目、8つ目くらいが一番自分のコアだったりするんです。「④苦手を知る」では、「生まれ変わったら世界からなくなっていて欲しいもの」を書き出しました。これは逆に3つに絞ることで、自分らしく取り組むべき課題が明確になりました。

―すごい。体系化されている!

澤田:こうした材料をたくさん掛け合わせて、僕の場合は「マイノリティデザイン」という「マイノリティや弱さ起点に社会を良くする」ことを自分の人生のコンセプトに掲げました。それで、「④苦手を知る」で分かった自分の愛せるレベルの弱さであり、世の中からなくなって欲しいものもはっきりしました。それが「スポーツ」だった。

―なるほど。そこが「ゆるスポーツ」に繋がったんですね。

この世界自体が未発達で未完成。だったら世界の全てに(仮)をつければ良い。

澤田:マイノリティデザインは、ある1人の弱さを起点に何かを発明するんですけど。そのとき、その人は弱さを克服しなくていいというのがポイントです。あなたは変わらなくていいから、社会の方を変えましょうというのが大事な考え。まず、既存のスポーツを徹底的にリサーチしたら分かったことがあったんです。

―なんでしょう?

澤田:既存のスポーツって勝ちパターンは3つしかなくて。より高い人が勝つか、強い人が勝つか、早い人が勝つか、或いはそれを掛け合わせた感じなんですけど。この3パターンは、人間の魅力の一部だけなんじゃないかと。人間の良さが全然生きてないんだと考えたら、めちゃくちゃ伸びしろがあるじゃないですか。アイデアの可能性を感じました。

―確かに。

澤田:はい。それで、僕がスポーツを再発明しようと思ったときに真っ先にやったのは、スポーツという概念の最後に(仮)をつけることだったんですね。目の前にあるスポーツ、世界にあるスポーツは、まだ(仮)なんだと。(仮)が前提なら、発明の余地がたくさんあるし、弱さも伸びしろもたくさんある。実はこれ、自分がアイデアを考えるうえで大切にしていることなんです。この世界自体が、未発達で未完成で全て(仮)なわけです。だったら、どんどんアイデア出していいじゃないかという気持ちになる。そうなると、自分のブレーキが外れて、スッとアイデアが考えやすくなるんです。

アイデアは名前から考える。

―世界は(仮)。いいですね。その「ゆるスポーツ」の第一弾はなんだったんですか?

澤田:最初に考えたのは、「ハンドソープボール」というスポーツです(笑)。実はゆるスポーツを立ち上げる前に、ハンドボール元日本代表キャプテンの東俊介さんから「ハンドボールをもっと盛り上げたい」という意向を聞いて。

ゆるスポーツで楽しむ老若男女の写真。例えばうんち帽子を頭にかぶり、落とさないように走るママと女の子

―「ハンドボール」がなぜ「ハンドソープボール」になったんでしょうか。

澤田:そのお話を聞いた時にとっさに思ったのが「ハンドボールが苦手な人でもできる新しいハンドボールを作った方がいいんじゃないかな」ということ。実は当時「日本バブルサッカー協会」というのが立ち上がっていて運営に携わっていたんです。バブルサッカーは、バブルボールを身につけた状態でぶつかり合いながらサッカーを楽しむのですが、スポーツが苦手な人もたくさん参加してくれたんですよ。で、パッと見た面白さだったり、「何か今までとは違うぞ」という違和感を入れるのが鍵だと思ったんです。

―そういえば、「ゆるスポーツ」ってなんだかクスッと笑えるものが多いですよね。

澤田:僕は大体アイデアを、まずは名前から考えるんです。鉄則は、みんなが知っている2つの言葉を組み合わせること。ハンドボールはみんなが知っていて、ハンドソープもみんなが知っている。で、それを組み合わせたら「なんだそれ?」って興味をそそるじゃないですか。新しすぎたり、斬新すぎるとスルーされたり、脅威を感じちゃうけれど、みんなが知っていて、絶対スポーツとは組み合わさらなかった言葉を掛け合わせると、コミュニケーションが滑らかになるんです。

―名前からアイデアを考えるんですね!

澤田:そう。一回思考を飛ばすこともできますからね。アイデアが出やすいんですよ。「ハンドソープボール」も、ハンドボールではボールの滑り止めに松ヤニを使うと聞いていて。頭にずっとあったんですけど、ハンドソープを見た時に全部繋がって「ハンドボール✖︎ハンドソープ」だと!

―滑り止めじゃなくて、逆にツルツルしちゃいますよね。

澤田:そうです。ハンドソープボールは、手に競技専用のハンドソープをつけるのでツルツル滑るうえ、ボールを落とす度にハンドソープが追加される。ボールを落とすと一人プレイヤーが減っちゃうので、落とさないように慎重になるし、コミュニケーションが大切になる。みんな声を出して笑いながら、運動が苦手な人も楽しんでいます。

アイデアを広めるには複雑な感情を盛り込むようにする。

―おもしろい!「ゆるスポーツ」にたくさんの人が興味を持つ理由はなんでしょう?

澤田:僕はアイデアにはあえて複雑な感情を盛り込むようにしています。そこで人との接点を増やすんです。

―複雑な感情?

澤田:具体的には、「いうえおあ」を大切にしています。い=怒り、う=疑い、え=エール、お=驚き、あ=遊び、この5つです。例えばゆるスポーツは、スポーツが苦手で馬鹿にされていた僕の「怒り」もありますが、僕みたいな人結構いると思うんです。あとは、目の前のスポーツが全てじゃないよねみたいな「疑い」、障害などが理由でスポーツがしたくでもできなかった人が感じられる「エール」、こんなスポーツ開発しちゃっていいんだという「驚き」、そして、みんなが笑い声を出せる「遊び」。色んな感情を持つ人との接点になれるんですよね。

―色んなところに活用できそうなお話です。最後に、澤田さんにとってアイデアとは?

澤田:アイデアって、閉塞感がある状態とか社会とかにこそ必要だと思っています。咀嚼できないことに対しては「?」マークがつくと思うんですけど。そこに「なんだこれ」という「!」マークが共存するとアイデアになる。「!」マークには、面白さが不可欠です。「面白い」って語源は「目の前が明るくなるとか、見晴らし・見通しが良くなる」という意味もあるみたいです。「身動きが取れない」状態がアイデアによって、進める道が見えてくる。だからアイデアって尊いんです。


一般社団法人世界ゆるスポーツ協会

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