地域の中で、子どもたちが「大切にされている」と感じるための取り組みとは?
日本の子どもの教育格差や、貧困の連鎖は広がり続けています。「子育ては親がやる」「教育は学校がやる」という社会の空気は、子どもや親を孤立させています。そんな中、地域の大人の「おせっかい」こそが子どもの笑顔や未来につながると、豊島区と連携して様々な居場所づくりを続けているのがWAKUWAKUの栗林さんです。

"自分がとんでもなく孤独を感じた時に、不思議と笑顔にしてくれたのは、子どもの頃の思い出でした"
−栗林さんの、行動の原点は何でしょうか?
栗林:東京に上京して8年ぐらい一人暮らしをしていたんですけど、世の中で私だけが独りぼっちみたいに感じたことがあって。そのとき、幼少期の遊びとか、皆でご飯を食べたこととか、おばあちゃん家でのお正月の時間とかを思い出すと、不思議と顔がニンマリして一人じゃないと思えたんです。子どもが困難を乗り越える力って、小さいときのそんな原体験なんじゃないかと思って。
−ご自身の原体験と、地域の一部の子供のあり方に違和感があって活動を始めたんですか?
栗林:そもそも自分の子どもがのびのびと遊べる環境が、私が住んでいる池袋の地域に少ない。ここでどう子育てをしていくんだろう、というのが私の一つの課題でした。その頃、豊島区が区制70周年記念事業で、「プレーパーク」を立ち上げるということを聞いて。
−子どもが自由に遊べる遊び場ですね。
栗林:はい。それが自宅から自転車で5〜10分のところだったので、そのプレーパークの活動に関わるようになったんです。そこで、貧困や障害とかいろんな子どもと出会う中で、いろんなおせっかいを始めたんですよね。

"貧困という問題と、街の子供たちの問題というのが繋がっていて、その子たちにはいろんな社会のしわ寄せがみんなきている"
−プレーパークで出会った子ども達についても聞かせてください。
栗林:私たちのプレーパークは10時から開くんですが、8時ごろから待っている子もいる。お昼ご飯も食べずに夕方までずっと遊んで、お腹すいたって言ってくる子もいる。以前、車中で暮らしていたっていう話を聞かせてくれる子。お母さんに殴られてパトカー呼んだんだよという子とか。私とたまたま2人になって、一緒に木に登ったりしているときに話してくれたりしてくれたりするんですよね。
−なるほど。居場所のない子供達の居場所になったんですね。ちなみに、WAKUWAKUでは他にどんな活動をしていますか?
栗林:2003年からプレーパークなどの活動をしていましたが、2008年にリーマンショックがあって。テレビで年越し派遣村のニュースを見たんですね。こんな日本で、貧困ってあるんだって。衝撃だったんですよ。
−私も当時ニュースで見ました。
栗林:国レベルの貧困という問題と、街の子どもたちの問題というのが繋がっていて、その子たちにいろんな社会のしわ寄せがみんなきているなと。この子たちは自分の力でどうにも環境を変えられない。お腹減ったって私に言うしかない。これってもう社会の問題で、その子たちがみんな犠牲になっているんじゃないかなと思うようになって。それがきっかけでWAKUWAKUを立ち上げて、こども食堂、学習支援事業、家庭訪問型子育て支援、宿泊機能をもつWAKUWAKUホームや、いろんなおせっかい事業を展開し始めました。

"「子育ては親がやる」「教育は学校がやる」という空気を私達マジョリティーの大人がつくっているのだと感じました"
栗林:こども食堂をやっていると、シングルマザーとかいろんな人が来ます。すごく孤立感を感じていたり、子育てを相談する人がいないとか、教えてくれる人がいないということも見えてきました。それで、家庭訪問のホームスタートという事業も始めました。
−ちなみに、宿泊施設のWAKUWAKUホームはどういったことがきっかけだったんですか?
栗林:たまたま、こども食堂に来ていた小学6年生の子が、遠くの施設に行ってしまったことがあって。施設に行っちゃうと、学校も友達も暮らしている環境も全て子どもから奪われる。この地域に子どもが泊まれる場所があれば、あの子は遠くに行かないでも済んだかもしれない。そんな思いから、WAKUWAKUホームという、子どもが無料で泊まれる施設を作りました。

−プレーパークを飛び出して様々な活動の話を伺いましたが、それらの機能は行政にはなかったということですか?
栗林:そうですね。逆に行政ではできないと思います。プレーパークは火も使う、のこぎりも使う、「やりたいことをやっていいよ」って。失敗しても笑って見守ります。怪我と弁当自分持ちみたいなものです。こういう取り組みって多分行政だけではできないんですよ。
−なるほど。
栗林:逆に行政としてできることは、公平に情報を伝えることとか。例えば官民連携で実施する食料支援の案内チラシを、区内児童扶養手当受給家庭(困窮ひとり親家庭)約1100世帯に郵送で送るっていうことは行政だからできる。民間でできること、行政でできることのバランスをうまくとって、お互い尊重し合いながら活動することで、色々なことがうまくいくのかなと思います。
"課題を知ったら心動く人がたくさんいるんです。「こども食堂ってとても素敵な活動」っていう空気さえできれば、広がるはずって思っていました"

−WAKUWAKUのネットワークにしっかり行政も入っているのは素晴らしいですよね。
栗林:1人ではできることは限られていると思うんですよ。でも地域で仲間と出会うと、一緒にやってみようってなりますよね。子ども食堂もそうでした。大田区でこども食堂という名前で取り組みが始まったと聞いて、「そのネーミングいいね」と共感して私たちも全国で2番目に始めたんですよ。
−早いタイミングですね!
栗林:とても良い取り組みなので「どんどん発信しようよ」となり、こども食堂サミットを開催したら多くの人たちが来てくれて、そこから全国へ広まりました。私と同じように、課題を知ったら心動く人がたくさんいるんですよ。なので貧困家庭の子どもの現状と、その課題について子ども食堂のような皆で取り組む活動を知ってもらい、「子ども食堂は素敵な取り組み」っていう空気さえできれば、広がるはずって思っていました。
"子どもはいろんな大人に出会って、親じゃない大人の価値観にもいっぱい出会って、その子の人生を自分で選択できるようになって欲しいと思っています"
栗林:プレーパークの子たちとはたまたま出会ったんですが、「私は関係ないって見て見ぬふりをするの?」と自分に問いかけました。そんなことはできないですよね。だから私は、子どもたちが地域の中でいろんな大人に出会って、親ともちがう価値観にもいっぱい出会って、その子の人生は自分で選択できるようになって欲しいと思っています。
−大人との関わり合いが子どもの未来を広げることに繋がるんですね。
栗林:昔は、不便な社会だからこそ、必然的に子どもは他の家でご飯を食べたり、たくさんの人に大切にされる経験をできていたんですよね。WAKUWAKUは、現代版の「地域の大人におせっかいされる環境」っていうのを紡ぎ直してるのかなと思います。

"幼少期に十分に愛される経験や、たくさん依存することが自立に繋がる。大切にされるシャワーをいっぱい浴びてもらって社会を豊かにしていきたい"
−「おせっかい」が鍵をにぎるんですね。
栗林:幼少期に十分に愛された経験や、いろんな人にたくさん依存することが自立に繋がることが、児童福祉法の理念に盛り込まれているそうです。子どもが、大切にされる経験をたくさんして、大切にされるシャワーをいっぱい浴びて、社会を豊かにしていきたいですね。遠いようで近道なのかなと思っています。
―最後に、今回出題された「Q」についての想いを聞かせてください。
栗林:教育費が無償になるなど、貧困への金銭的な対策は始まってはきています。一方で「人による関係性づくり」は、お金を配るだけでは解決しない問題です。子どもが本質的な貧困から抜け出すには、いろんな大人と関わることがすごく重要です。そのためにも、この街に暮らす大人が、子どもにおせっかいするっていう機会をたくさんつくっていくべきです。本質的に社会が豊かになるためにも、子どもたちが、地域の中で『大切にされている』と感じることが増えて欲しいですね。
この問いに関心のあるみなさま、たくさんのアイデアをお待ちしています。



